【イベントレポート】DAO入門講座 DAY1 「DAOとは何か?価値を産み、循環させる仕組みへ」〈前編〉

イベント概要

DAOの基礎知識を学び実践する4日間の入門講座、『DAO入門講座』が2025年5月18日(日)より、いよいよスタート。初日となるDAY1では「DAOとは何か?」という基礎的な説明を経て、小豆島を題材としたグループワークを実施。「DAOでの価値とその設計方法」など、DAO運営の根底に関わる知識を学べる時間となりました。

はじめに

DAY1講師紹介

DAY1の講師、そしてDAO入門講座全体のコーディネートを担当します、澤 海渡(さわ かいと)と申します。「さわくん」と呼ばれていますので、気軽にそう呼んでいただければと思います。

普段はランニングホームラン株式会社で企業のコンセプトメイク、つまり企業の価値観の言語化などを仕事としています。DAOはトップに権限の集中がなくメンバーが自由に行動できるのが特徴ですが、その分だけ軸となるコンセプトが重要で、それがないとDAOが組織としてまとまらなくなってしまう。そのコンセプトメイクのため、複数のDAOと関わらせていただいております。

DAO入門講座について

『DAO入門講座』は『DAO大学』の一環として実施しています。『DAO大学』では参加者それぞれがDAOを学び、プロジェクトを通じて実践していく教育プラットフォームです。現在は構想段階ですが、『DAO大学』によって地域にDAOが生まれ、そのDAOが産業を生むという「学びながら地域により良いものができる」構造をつくりたいと考えています。

『DAO入門講座』では組織設計や運用などを学んでみて、「どういったDAOができるのか」を皆様に思い浮かべてもらうところまで、お付き合いいただきたいなと思います。

DAO概論

そもそもDAOとは何か?

講座の本題に入ります。「そもそもDAOとは何か?」という説明から。

定説としては、DAOは「分散型自律組織」を意味するDecentralized Autonomous Organizationの略称です。コミュニティとして価値を持続的に創造する新しい組織の形であり、参加者同士が協力し合って物事を決めていく仕組みになります。

よく言われているのは、メンバーが各々のやりたいことをやっていたら、自然と課題が解決されたり目指す方向に向かったりするよう、サポートしてくれる仕組み。文化祭を例として表現されることもあります。劇をやる人、食べ物を売る人、展示をやる人で自由に決めて動いた結果、祭りが盛り上がるという共通目的が達成されるというような。

それに対して疑問を持つ人もいます。

プロジェクト型オンラインサロン、オープンソースと何が違うのか? 
物事をフラットな立場で決めるならNPOと一緒ではないのか? 
他の似た構造の組織と比べ、どこが新しいのかがわからない…

結論からいうと、類似した組織構造の良い点を取り入れ、悪い点を改善しています。オンラインサロンであれば「価値観で集まる」という良い点を残し、「参加者が持続的でない」という悪い点を改善。NPOであれば「価値にコミットできる」という良い点を残し、「報酬付与に限界がある」という悪い点を改善、といった具合に。

このように組織構造の長所を取り入れる際に重要なのが、エコシステム(生態系)という観点です。

エコシステムとは、生き物が生き物として自然な行動をしていたら、結果的に地域が豊かになるようなシステムづくりを言います。

花と蜂で例えるなら、花は受粉を増やしたい、蜂は食料となる蜜が欲しい。そこで蜂は花を移動して蜜を集め、花粉を別の花へと渡します。これによって蜂蜜が生まれ、それをいいなと思った人間が巣箱をつくる。これで花と蜂は安定して、人間も巣箱を作ったことで関連する産業が栄えて……と、自然な流れで発展していくのがエコシステムです。

花と蜂のようなミクロな関係性も、続けていくことで影響を及ぼし、地域単位の相互作用になっていく。その地域同士が連携を取り合えば今度は県域、国と広がってマクロな規模になっていきます。

そのためDAOとは「分散型の組織」ではなく「価値の循環構造」だと言えます。

組織論として捉えるのではなく、エコシステム設計論として捉えるのが重要です。

なぜDAOなのか?

それでは「なぜDAOを作らなくてはいけないのか?」という話に移りましょう。

今、私たちが暮らす社会では複数の問題が同時に起きています。

人口減少と高齢化、地域や産業の衰退、空き家の増加や担い手の不足、若い人や有志のプロジェクトが「点」で終わって続かないなど……やる気のある個人やユニークな価値は存在するのに、「持続可能な協力の仕組み」がないことで、社会課題も産業も生まれてこない。

これがなぜ起こるのか。エコシステムがないからです。

昔は地域・企業・社会に「余白」があり、換金できない文化や遊びや信頼にもリソースが割かれていました。時間や空間に余裕があって、役立つかどうかにかかわらずプロダクトアウトそのものを大切にできたわけですね。

それが現在、グローバル化によって市場が大きくなり、すべてにおいて効率を求めるようになった。短期的な価値基準に基づいて判断してしまい、換金できないものへの投資が切り捨てられて衰退してしまう。そうすると土壌が枯れ、産業が生まれない社会構造になってしまった。

この「土壌の劣化」への危機感からNPOや社会起業家といった主体も登場します。こちらはこちらで重要な役割を果たしていますが、一方で問題点も多いです。補助金に依存しがちで政策変化やスポンサー撤退で揺らぐ、インセンティブ設計が「気持ち」や「使命感」に依存しがちで続かない、役割が属人化しやすいなどですね。

「理念」は共有されても「構造」が存在しない状態なので、社会課題へのアプローチやカウンターカルチャーが育たないという状況が続いています。

今、必要なものは何か?

価値観を歪めずにそれにコミットできて、1人だけではなく全体最適できるようになっていて、関わる全員に還元できて、頑張りや請け負うリスクに応じてリターンが分配されて、持続的に関わる理由を持ち続けられ、属人性なく存在し続けられるシステム。これがDAOです。

DAOでは意識的に設計することで、先ほど言ったようなシステム——「価値の創造・循環・享受・意思決定」の構造を構築でき、自律的に機能させられます。

  • トークンによる報酬設計:どんな行動に、どんな報酬を付与するかを設計できるので「望んだ価値」に向けて調整できる。
  • 分散型の意思決定構造:ガバナンストークン等を活用することで、意思決定の設計/透明化が可能に。
  • 共通世界観と構造化された関係性:「想い」だけでなく、「どう協力するか」のプロトコル(構造)まで定義。
  • ネットワーク効果:“初期に、繰り返し参加するほど得”、”関わる人を増やすほど得“になる構造を設計できる。
  • プロダクトアウトのマーケットイン:日本円と接続せずに初期・中期に価値を育て、市場と接続することで市場の圧に歪まず成長可。

実際のビジネスにも、発展させたい方向に制度設計を行うことで転用できます。アカウントを複数事業者で共有してマーケティングの貢献度に応じた報酬設計を組み込んだり、遊休資産のまま放置されている施設を共有して投票や出資で活用の流れを作ったり。それぞれが自然と動けば課題が解決される、そうした仕組みをつくれます。

DAOに必要な学びとは?

では、DAOをつくるのに必要な学びとは何でしょう?

DAOでは最初に何を価値として定めるのかが重要です。花と蜂の例では、生み出すべき価値は蜂蜜になります。この蜂蜜を中心に、それを取り巻く花や蜂や人間の役割も決まってきます。

この価値を生むためにステークホルダーである運営が必要となり、その運営の周りには事業に参加や拡散などで携わる貢献者が集まります。このようにしてDAOはつくられていきます。

  • 「何を生み出したいのか」という価値設計
  • 「誰がどう関わるのか」という運営設計
  • 「どう自律的に広がっていくのか」という拡張設計

この3つがDAOの設計では大事になってきます。

それに加えて、その価値をどう循環させるか考えるのも重要です。先ほどDAOは「価値の循環構造」だと言いました。生み出し、循環し、広がり、また生み出して……と、ぐるぐる価値が巡っていくことで、少しずつ価値が大きくなっていく。これがDAOの価値を育てる方法となるわけです。

そのため、3つの視点がDAOでは必要になります。

  • 価値視点:どんな価値を育てていくのか?
  • 運営視点:どう人を巻き込み、持続させるか?
  • 拡張視点:その価値を誰に、どう届ける?

次に価値視点について、引き続き僕からレクチャーしていきたいと思います。