【イベントレポート】DAO入門講座 DAY1 「DAOとは何か?価値を産み、循環させる仕組みへ」〈補講〉

イベント概要

DAOの基礎知識を学び実践する4日間の入門講座、『DAO入門講座』。今回はDAY1の補足として配信された動画の内容を補講としてご紹介します。「DAOにおける協力の何が新しいのか?」「DAOの取り組みをどう届けるか?」などのトピックについて、講師陣が語ります。

はじめに

DAY1ではDAOの基礎的な知識を深める内容を取り扱いましたが、既存の組織構造や事業運営との違いについて、言及できなかった部分もありました。

そうした部分への疑問の声に対し、DAO運営の専門家と呼べる講師2人が回答します。

DAY1補足講義

「DAOにおける協力」のどういったところが新しいのか?

質問:
「DAOは新しい協力のかたち」と称されますが、多様な人々が協力するという観点では既存の組織構造も同様だと思います。DAOにおける協力では、どういったところが新しいのでしょうか?

本嶋:改めまして、本嶋です。日本でのDAO導入支援など、DAO領域では早期から活動しています。

質問にお答えする前に、人と人との協力体制について、従来のものに対する僕自身の課題意識をお伝えします。これは僕がDAOの導入を進めている理由にも繋がってきます。

人と人が協力体制を取る時、大抵は同じ目的を持った人々同士が協力する、もしくは強い動機を持った人を支えるようにグループが形成されるのが一般的です。その場合、例えば同業者同士は利益相反が起きるので協力できないなどの状況が生まれてしまいます。やりたいことは同じはずなのに、衝突を警戒して疲弊してしまう事例をたくさん見てきました。

また地域を巡っていると、「こことここが繋がったらいいのに」と思うことが多々あります。仲介役が入って最終的に繋がるとしても、その仲介役に負担が生じてしまいます。最近は企業同士のマッチングサービスもありますが、信頼関係を結んで今後に繋げるところまでは発展させづらい。

「構造的に人と人が協力するシステムをつくれたらいいのに」と以前から考えていました。

さらに特定の人物や組織がリーダーに回ると、先ほども話した利益相反や活動方針などの感情面を理由に「乗れない」という人がどうしても出てしまいます。

それから誰かをリーダーにすると、人と人の目的が100%合致することはあまりないのに、リーダーの強い動機のために指示に従わなくてはいけない人も出てきます。この状況は持続的とはいえません。

こうした理由から人を集められず、持続的な活動もできないというのが既存の協力体制の状況です。

DAOは「協力3.0」だとDAY2講師の松原さんはおっしゃっていました。それぞれが個別の目的を持つ中で、共通の目標をクリアすることでその目的も達成できる。そうした構造をDAOは持っていて、これまでの協力体制の課題を解消できるところが新しいと考えています。

加えて、誰かが最終的な意思決定者ではないことも大きなポイントです。誰かに権限が独占されていないので、「乗れない」という人を減らせます。人ではなく目的が媒介になっていて、全員が平等な立場だからです。

リーダー:協力者の1:1の関係ではない、協力者同士のN:Nの関係も構築され、発展に向けた共助や共創が生まれやすいところも新しいですね。

澤:新しい協力としては、DAOはトークンなどの技術を使っているところも特徴として挙げられますよね。こうした技術はDAOの協力の仕組みとどういうかたちで接続するのでしょうか?

「協力3.0」にはNPOらしい部分もあって、それをDAOと言い換えるのは技術を補助的に使っているからなのか、それともDAOはDAOで新しい部分があるからなのか。僕自身も気になっています。

本嶋:僕も「人と人が個別の目的のため、共通の目標を協力してクリアする」というところはNPOらしい部分でもあり、初期のDAOの在り方だなと思います。しかしDAOが構造として発展するにあたって追加されたのがトークンなどの技術です。

トークンはDAOの協力の幅を広げる役割を持ちます。

花の蜂の図では結果的にハチミツが生成されます。花と蜂の相互補完まではNPOらしい協力体制でもありますが、このハチミツを使って協力する人々を増やせるのがDAOです。

ハチミツが生成されるとして、この関係性に人間が協力するのは本当にハチミツが欲しいからとも限りません。ハチミツを売ったお金を求めて働く人が多いはずです。

このお金の役割を果たすのがトークンです。発生した価値と何かを交換できる通貨のような存在があることで、「ハチミツは欲しくないけどお金は欲しい」という人も協力の輪の中に巻き込めます。

澤:直接生み出したいものをトークンと交換できるようにすることで、それ自体が目的ではない人たちも関わりやすいようにしている、ということなんですね。

DAOの取り組みをどう届けるか?

質問:
DAOは関係性の輪を広げていくことに意義がある、とはDAY1の講義でも教わりました。この広げていく、知ってもらうという意味ではマーケティングと重なるところもあります。従来のマーケティングと違い、DAOの取り組みを届ける際にはどうすればいいのでしょうか?

本嶋:DAO導入の相談を受ける中で、理由として「自分たちがいいと思うものが売れないので、DAOの仕組みを使って世の人々に届けたい」という方がいます。

僕自身「日本にはこんなにいいものがあって、面白いことをやっている人がいるのに、それが市場で評価されていない」というもどかしさを感じてもいます。そういった意識からDAO導入に携わるようになった面もありますし。

マーケティングでは、マスに向かって活動する傾向にあります。日本なら日本全国、海外を狙うなら世界全体という規模感です。製品もマスに刺さるように開発し、宣伝競争を勝ち抜いて売れるといったモデルが今までの形態でした。

するとニッチだけど価値のある、地域の伝統工芸などの製品が売れなくて難しい。大切な価値が淘汰され、未来から見ると失われたものが多いという状況が生じてしまいます。なんとか地域の製品をブランディングして売ったとして、流行り廃りの回転が速い昨今では消費されて終わってしまう。そうした状態はとても持続的ではないですよね。

また、価値観が多様化する現代では多数の人に支持されるというのがかなり難しくなっています。チャレンジする人も減って、市場に新しい価値も生まれない。メーカーやクリエイターも本当につくりたいものがつくれず、広告に関係する媒体だけが得をしているのが現状の課題だと考えます。

さらに言うと、現代は消費者と生産者が分断されすぎている状態にもあると思います。消費者が生産者に働きかけて製品が生まれ、生産者が消費者を育てて文化が生まれるという相互関係が、今はもうありません。消費者は消費するだけになって、生産者も売りたい人を選べない状況になってきています。

「本当にいいものを、わかる人にだけ届けられればいい」と僕は思います。消費者が生産者側にも回れる、両方の視点を持った人たちの関係性が積み上がっていったら持続的になれるはず。それがDAOのやろうとしていることだと考えています。

持続的な状況をつくるにあたっては、全員が協力して全員が見返りを受け取れるような構造が必要です。コミュニティの人が求めるものをつくって、相性がいい人にどんどん広がっていくような状態がDAOでは構築できると思います。

ここにトークンのシステムも加えると、広報活動に見合った報酬をみんなが受け取れるし、広めただけトークンの価値が上がるとなれば能動的に協力できる。「勝手に広がっていく」状況を設計し、消費者にも生産者の一部になってもらうのがDAOを届ける方法なのではないでしょうか。

澤:しかし、そもそも「ニッチな事業を立ち上げにくい」という問題があると思います。最終的に一定以上の量が売れなければ事業として成立しませんよね。ニッチがニッチのままで生き残ることはできるのでしょうか?

本嶋:これは統計的な考え方ですが、マスに向けて一定数の人たちに刺さるのであれば、範囲を小さくしても訴えかける層が適切なら同じ数の人たちに刺さると考えています。

1%でも全国規模なら大きい割合ですよね。なら、製品がニッチでも刺さる可能性は大いにあると思います。

澤:つまりDAOにおける拡散方法とは最初からその1%を狙いにいく方法で、1%にたどり着くまでの過程を様々なシステムで補助するという発想なんですね。

情緒的価値の重要性

質問:
情緒的価値について。これがどういったものなのか、そして情緒的価値が何故DAOで重要なのか教えてください。

本嶋:実は僕も情緒的価値についてはまだ把握しきれていないところがありまして。構築できたらいいなとは思いつつ、僕にとっても難しいところではあります。

今まで立ち上げて運営が軌道に乗ったDAOでも、最初は上手くいっていたのに「いざビジョンや問題意識を洗い直してみると、みんなバラバラだった」ということが起きています。自分では言語化していたつもりでも、ベースとなる価値観が構築されていなくて、短期的な目標だけで運営が続いていたんですね。

方向性が見えていても、目の前の目標をこなすだけでは迷走してしまいます。活動内容がブレたり、DAOそのものが停滞したり……。そこで澤に携わってもらい、ベースとなる価値を設定してもらって軌道修正した、ということが何度かありました。

澤:そのため、この『DAO入門講座』を設計するにあたり「最初から情緒的価値が設定されていた方がDAO運営が上手く進む」と考えて内容に組み込みました。

情緒的価値が設定されていない状態、例えば「RULE MAKERS DAO」では法律やDAOといったカテゴリーに関心のある人が集まっただけで、活動意識の方向性が統一されていませんでした。「市民がルールをつくれる環境整備」という部分が度外視されて、それぞれが別々の活動をしていたんですね。

「どういった世界をつくりたいか」という価値観の部分に愛着がある人を集め、活動させる。そうした役割を情緒的価値は持っていて、だからこそないとDAOは破綻してしまうんです。